素潜り・魚突きにおける安全管理
Contents
はじめに
魚突きというのは、私個人的には
世界一面白い遊び
だと思ってます。
しかし同時に
世界一危険な遊び
でもあり、これに関しては
私の意見ではなく「事実」です。
海に囲まれたこの日本、
海に潜ろうと思えば
実に気軽に始められます。
しかしその海で待ち受けているのは
他のどんな遊びやスポーツと比較しても
ケタ違いの「危険」です。
水中で息が切れれば死、
ブラックアウトで死、
流されれば死、
サメに襲われれば死に、
船に轢かれても死ぬ。
そして何より、
その危険が襲いかかってきた時には
あなた一人しかいない
誰も助けてはくれない
という事。
こんなスポーツは他には無いでしょう。
また悪いことに
魚突きというのはマイナーであるがゆえに
その情報も非常に少ないです。
そのため、その安全対策と言うのも
これといって確立はされておらず
特に初心者の方においては
手探りでやっていくしかないのが現状です。
もちろん、私も安全対策というものを
「確立」している訳では決してありません。
これも後述しますが、
魚突きにおける安全対策と言うのは
あくまでも個々人が
自分自身に合せて行うものであり
「自分自身の安全対策」
というものを作って初めて意味を持ちます。
しかし、それにしても
何の手がかりもないのでは
自分の対策も何も立てようがない、
そんな方も多いと思い、
本稿では私自身が考える
「安全対策の “軸” 」
をお伝えしようと思います。
これとて当然「答え」ではありませんが、
確実にやっておくべき事を網羅したつもりです。
特に初心者の方においては
他の魚突きの記事を読んでいただく前に、
まず本稿に目を通して頂きたいと思います。
初心者の方へ
本記事は上から下までかなり重要な事を書いたつもりなんですが、まあ全部を読まない方もいらっしゃると思うので、一応冒頭で「最も基本的な安全対策」をババッと箇条書き形式でお伝えしておきます。
特に初心者の方は、とりあえずこれだけは守るようにして下さい。
- 海での事故は「118番」
- 何かあったらまずはとにかく「ウェイトを放棄する」
- 浅場でウェイトを放棄する練習をしておく
- ナイフは必ず携行する
- 緊急用のナイフは普段決して使わない
(腹だし等は別のナイフで行う) - 緊急用のナイフは常に切れるようにしておく
- フロートは絶対に使うこと
- フロートは手銛の手当てに繋ぐ、
ウェイトベルトには繋がない - 少しでも酒が残っている時は決して海に入らない
- 海に入る前に準備運動(ストレッチ)を行う
で、その上で断言しますが
上記の内容では安全対策の「あ」の字にもなってません。
これはあくまでも「やって当たり前」の事です。
これは冒頭でも触れましたが
本当の意味での安全対策は
自分自身で作るもの・行うもの
です。
上記の内容を守ったからOK、
ベテラン突き師が言ってることを
一通りやってるからOK、
魚突きの安全対策とは、そういう
「受け身」で「やらされる」事ではありません。
結局、海に出れば誰も助けてはくれませんし、
全ての責任は自分自身で持つしかないんです。
そして「自己責任」というのは、
当然ですが私が決めたことではなく、
他の誰が決めたわけでもなく、
大自然を相手に遊ばせてもらう以上は
問答無用で課せられるルール
のようなものです。
特に魚突き、素潜りというのはスキューバダイビング等と違い、インストラクターがいるわけでも なければ、スクールやライセンスがあるわけでもないです。バディーすら居ません。だからこそ、イザという時に自分の身を守れるのは自分だけだからこそ 「自分自身で」主体的に安全対策をする、というのが非常に重要だという事なんですね。
本稿で私がお伝えしたいのは
まずは安全管理の “軸” をお伝えしたいということ、
そしてその軸に沿って自身の安全対策を考えてもらい、
それを常にアップデートし続けて行ってもらいたい
という事なんです。
特に大事なのは「アップデート」し続けるという部分です。
今は初心者でも、海に通えばスキルも体力も上がるでしょうし
潜る地域も水深も変わっていく可能性が高いです。
すなわち、安全対策もその都度変えていく必要があるということ、それを肝に銘じておいてください。
魚突きの “スタイル” と安全対策
さて、冒頭でも言いましたが魚突きというのは超マイナーな遊びです。
それゆえに、そもそもの話として絶対的な情報量が少ないです。
なので初心者の方は、安全対策うんぬん以前に、もう魚突きの道具からして「何が必要なんだろう?」という所からスタートされる方がほとんどだろうと思います。
とすれば、なおさら安全対策など二の次、三の次になってしまいがち・・・
というのも分からなくはありません。
そしてそれに輪をかけて、日本全国どの海も一つとして同じ海は無く、地域によって獲れる魚、そしてローカルのルール、もっと言えば各個人の体力やスキル、使う道具も違う以上、
魚突きのスタイル
というのは千差万別、という面があります。
なので、その海によって、その人によって
安全対策もバラバラ、というのが現状です。
もちろん、それはある意味仕方のない面はあるでしょう。
地域、地形、海況、体力、スキル、道具・・・
これらが異なる以上は、
一律で「安全対策とはこれだ!!」
という物を作るのは
ハッキリ言って不可能だと思います。
しかし、私はこと安全管理・安全対策に関しては、「人それぞれスタイルが違うから」という一言で安易に片づけていい問題だとは決して思えません。
というより、そもそもの話として、魚突きの「スタイル」というのはしっかりした安全管理の上に成り立つものであるべきです。
安全を差し置いて「俺はこういうスタイルでやるから」というのは、私個人としてはそれは非常に浅はかだなと思います。
死んでしまえば「スタイル」もへったくれも無いんです。
先程も自己責任とは言いましたが、もしも海で事故が起きた場合の影響と言うのは、決して「自分だけ」の範囲に収まりません。
家族、友人、恋人は言うまでもなく。
捜索には地元の漁師さんが駆り出されるでしょうし、事故が起きれば、その地域には確実に暗い影を落とすことになります。
もしあなたの身に何かあった時、あなたの周りの人がどれだけ悲しむか、その人たちがどんな顔をするか、それをしっかり想像した上で、自分の「魚突きの“スタイル”」を今一度考えてみてください。
「俺はこういうスタイルで潜ってる」
これがカッコ良く映るのは生きてる時だけです。
安全対策の軸
安全対策というのは、基本的には「事前の準備」が軸となります。
その事前準備があり、そしてそれを前提に、いざ何かアクシデントが起きた時のシミュレーションをする。
端的に言えばこれだけの事です。
ではその準備とは何か?
もちろん体力的なトレーニングや体調管理、事前の準備体操なども大切なのは言うまでも無く、しかし海においては「ハード面」つまり道具の準備はさらに重要になってきます。
魚突きにおいて、自分の体を除けば道具以外に「使えるモノ」「頼れるモノ」はありません。そりゃ体力も大事ですが、魚突きでは道具の方が圧倒的に大事です。
いくら体力があって脚力があっても、フィンを履いた人に泳力で勝つことは不可能だし、いくら息が長く持つといっても、ウェットを着てなけりゃ寒くて10秒も潜れません。
大自然を相手にするんですから、手前の体一つで勝負できると思う方が間違いです。
なんでこんなイヤな言い方をしてるかっていうと、
自分自身の体力を過信するのが一番危険だから
です。
これも良く言われる事ですが、たとえば川や海で溺れている人を救助する時、「元水泳部だったから」「泳ぎには自信があるから」という過信の下に自分も飛び込む、これが一番危ないって事は皆さんもご存じのはずです。
そんな時に何が必要か?それって単純に
ロープ
という「道具」なんですよね。
決して「泳ぐ能力・体力」じゃない。
魚突きってのはシンプルであるがゆえに、たとえば究極の話「手銛+マスク+海パン」という超軽装でもやってやれない事は無いです。
でも、ちょっとでも本格的に魚突きをやってみれば、上記のような格好で潜る事がどれだけ危険か・・・というか自殺行為でしかないって事が痛いほど良く分かると思います。
フィンが無いので流されれば「死」。
運よく流れから出られたとしても
ウェットスーツが無いので
泳ぎ着かれて死ぬか、低体温症で死ぬか。
何かに絡まってもナイフが無くて「死」。
もちろんいくら道具が揃っていても、その使い方を知らなかったり、イザという時にパニックになって使えないとかじゃ何の意味もありません。
でも、そういった「実際の海でどう行動するか?」というシミュレーションというのは、あくまでもその時に使うべき道具が揃っている事が大前提であって。
マジで、魚突きにおいて頼れるモノは道具だけです。
道具を揃えたから無茶してもいい、って訳じゃないですよ。
でもそれにしたって、「体力には自信があるから」という理由で無茶をするよりかはよっぽどマシだと思うんです。
海はそんなに甘くないです。
海が牙を剥いてきた時、人間の体力の差など誤差レベルの違いでしかありません。
過信は禁物。
安全上重要な道具
さて、と言っても、その道具の種類はそう多くはありません。
「ウェットスーツ」「フィン」「マスク」
このあたりは安全も何も
魚突きをするのに必要ですから
皆さん持っておいででしょう。
他には「フロート」「ナイフ」がありますが、これは後述します。
ウェットスーツはとても重要
上記で言えば「ウェットスーツ」は安全という意味でも非常に重要なアイテムです。
特にこれから魚突きを始める方は、まずはウェットスーツを買うべきです。
ウェットスーツに関してはハッキリ言って必需品で、夏だろうがどの季節だろうが、必ず着てください。
理由は体温維持、またそれにより「息がより長く持つ」ということ(寒いと息が全く続きません)、そして肌の保護。
あとはこれが一番重要で、万が一の際の「ライフジャケット」の役割がウェットスーツにはあります。
これはどういう事かというと、ウェットスーツは発泡ゴムなので、素材そのものに浮力があります。そのために、普段はその浮力を相殺するための「ウェイト」を腰に巻きますが、万が一の際はこのウェイトをベルトごと外します。それにより、ウェットスーツという浮力体のみを着ている状態になるため、溺れるリスクを格段に減らすことが出来ます。
※冒頭でも言いましたが、「何かあったら、まずはとにかくウェイト放棄」 です
夏でも着るべきと言ったのはこれが理由です。
いくら寒くないからといって、浮力の無いラッシュガードだけで潜るのは危険な行為です。
ただし夏に着る場合はウェットスーツの厚みだけはよく考える必要があり、たとえば夏の沖縄で5mmツーピースのウェットスーツを着用すると、今度は保温性があり過ぎて熱中症の危険があります(そのぐらい暑い)。これは沖縄に限らずで、私の場合も夏は3mmを着用しています。
フロート
あとは特に初心者の方が
おろそかにしがちな道具として
「フロート」
があります。
くれぐれも申し上げておきますが、初心者だからフロートは別に必要ないとか、そういう風に思ってるとしたらそれは大間違いですからね。
魚はメグシに通すからいいや、というのも違います。
フロートを使う理由は、まずは「視認性」。
船に轢かれないように、というのが第一ですが、同行者に位置を把握しておいてもらえる、というのも非常に大きな意味があります。
なので、フロートはできるだけ視認性の良い物を使ってください。
色はオレンジ、赤、黄色。
そういう色のテープを貼るのも有りです。
あとは水面からある程度の高さが無いと、特に同行者からは全く見えませんから、それなりに大きなもの(平べったくないもの)を選ぶのもポイントです。(平べったいモノでも、旗を立てるなどの対策をすればOKです)
他にもフロートには突いた魚をキープするという重要な役割があります。
もしフロートがなければ腰に魚をぶら下げるしかなく、それだとたくさんの魚は獲れないうえ、サメに体ごと噛みつかれる恐れもあります。あとは魚の重みで自分自身の浮力が変わって来るので、その都度潜り方を変えねばなりません。
フロートを使っていれば、同行者からある程度の位置は把握してもらえますから、先述の「何かあったらウェイト放棄」と組み合わせることで、事故の際の生存確率は少なからず上がると思っています。
ウェイトを放棄すれば運が良ければ水面に浮きますから、フロートを目安に同行者が水面に浮く救助者を発見してくれれば、その場で何らかの処置が可能になるかもしれません。
まずは慣れよう
とりあえずは簡易なもので良いので、まずはフロートを使う事に慣れましょう。
慣れないうちは煩わしく感じるので、最初に使ってみてメンドクサかったのでそれ以降使わず放置・・・という方も多いと思います。
しかし使ってみて慣れれば非常に便利でもありますし、自分なりに使いやすいフロートシステムを作るのも楽しいですよ。
ちなみに私はボートフェンダーを流用した物を使ってます。
非常に肉厚のPVCで頑丈なので、海上でパンクはまずありません。
視認性もよし。
あとは結構安価なので、最初に使うフロートとしてはかなりおススメです。
他、フロートと手銛との接続方法、フロートラインの素材などなど・・・
伝えきれない事がまだ山ほどありますが、それはまた別のページで解説したいと思います。もちろん私に直接メールなりメッセージなりを送って下さっても全然OKですので、その際は個別にアドバイスさせて頂きます。
それと、またあえてイヤーな言い方をしておくと、
たとえば、仲間数人で魚突きに行ってるような場合、あなた一人が急にフロートを持っていったりすると何かダサいな、というか。そういう風に思うかもしれないし、実際にそう茶化されるかもしれませんが、そんなクソ野郎は仲間でも何でもないので、無視してあなただけはしっかりと安全対策をしましょう。
でもってその後は、そういういつ事故を起こすか分からない連中とは距離を置きましょう。もしも彼らが実際事故に遭った時、あなただけが安全対策をしてた、ということで、言われも無い非難を受ける可能性が高いです。
ナイフ
ナイフも必ず携行しましょう。
理由はいわずもがな、万が一海中で釣り糸やロープに絡まった時に切って脱出するためです。
「素潜りでナイフを使って緊急脱出?そんな余裕があるわけない」
という意見もたまに聞きますが、
「じゃあどうやって脱出するんですか?ただ死を待つだけですか?」
と単純に思うんですけどね。
魚突きで問題なのは、割とナイフを「常用」してしまうって事です。
魚の〆、腹だしなどナイフを使う機会は多いです。
が、緊急用のナイフをそういった用途で日常的に使ってたら、イザという時に切れないという最悪の事態が起きたりします。
もちろん日常的に使ってるからこそ、イザという時にパッと手にとれるというメリットもあるとは思いますし、頻繁にメンテをしている方なら問題は無いかと思うんですが、個人的には普段使いのナイフと緊急用のナイフは別々にして使い分けた方が良いと思います。
ナイフを選ぶポイントは・・・そうですね、海中で落としたりしないよう、しっかりとしたロック機構を持つシースナイフであれば何でもいいと思います。
むろん錆に強い方が良いですが、正直言って錆びないナイフで、かつロックのしっかりしたシースを持つナイフって私が知る限り無いんですよね。
錆びるのを覚悟でロックのしっかりした物を選ぶか、
錆びないナイフでシースは工夫して落下防止策を講じるか、
このどちらかになるかと思います。
私個人の話をすれば、緊急用のナイフはこんな感じで「錆びるけどロックのしっかりした物」を一本、それとは別に折り畳みの「錆びないナイフ」をウェイトベルトに一本差してます。でもって魚のシメはメグシでやります。